№0156
小諸なる古城のほとり小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁蔞は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾の岡辺
日に溶けて淡雪流る
あたゝかき光はあれど
野に満つる香も知らず
浅くのみ春は霞みて
麦の色はつかに青し
旅人の群はいくつか
畠中の道を急ぎぬ
暮れ行けば浅間も見えず
歌哀し佐久の草笛
千曲川いざよふ波の
岸近き宿にのぼりつ
濁り酒濁れる飲みて
草枕しばし慰む
千曲川のほとりにて
昨日またかくてありけり
今日もまたかくてありなむ
この命なにを齷齪
明日をのみ思ひわづらふ
いくたびか栄枯の夢の
消え残る谷に下りて
河波のいざよふ見れば
砂まじり水巻き帰る
嗚呼古城なにをか語り
岸の波なにをか答ふ
過し世を静かに思へ
百年もきのふのごとし
千曲川柳霞みて
春浅く水流れたり
たゞひとり岩をめぐりて
この岸に愁を繋ぐ
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